「戦時」から「成長」へ
1950年代におけるフランコ体制の政治的変容

「戦時」から「成長」へ 1950年代におけるフランコ体制の政治的変容
著者: 武藤 祥[著]
ISBN: 978-4-901988-24-7
判型: A5判上製
刊行: 2014年3月
定価: 3,800円+税

1939~75年まで続いたフランコ体制は、長期独裁体制として、スペイン内戦終結から70年代後半の「スペイン・モデル」と称された平和的・漸進的「移行」に至るまで、多くの変転を遂げてきた。そのなかでも1950年代は、「戦時体制」から「成長指向型独裁体制」へと変容し、60年代以降の高成長につながる重要なエポックとして位置づけられる。この間の政治的変容は実に複雑なプロセスを経、さまざまな思潮をもつ多様な政治アクター間の対抗関係のなかで生じた。膨大な一次史料・二次史料の渉猟の上に、研究蓄積の薄いこの50年代のフランコ体制に新たな光をあて、詳細に解明した労作。

自著を語る

武藤 祥

 近年、わが国でもスペインに関する情報が広く知られるようになった(おりしも本書が出版される2013-14年は、日本・スペイン交流400周年である)。だが、かの国の歴史や政治については、一部の例外を除きさほど知られていない。
 数少ない例外の一つであるスペイン内戦(1936-39年)は、ヘミングウェイやオーウェルの作品、あるいはピカソの『ゲルニカ』などを通じ、世界的にも大きな関心を惹起した。その内戦終結後、実に36年にわたってスペインを支配したのが、フランコ体制(1939-75年)である。
 この独裁は、しばしば言われる「スペインの特殊性(後進性)」の最たる証拠とみなされることが多かった。だが1950年代末、それまでのアウタルキー(自給自足)的政策を放棄し、自由主義的経済政策へと大きく転換したことで、1960年代、高度経済成長期の日本に次ぐ、飛躍的な経済発展(「スペインの奇跡」)が実現した。また、フランコの死によって独裁が終焉したスペインは、驚くほど平和裏に民主主義への移行を果たした。長期独裁は危機と混乱に満ちたスペイン近現代史のクライマックスであると同時に、スペインがヨーロッパの「普通の国」へと変貌する萌芽期でもあったのである。
 本書は、長いフランコ体制史の中でも1950年代に焦点を当てて、国内政治に生じた変容の中から、60年代以降の経済成長路線がいかに生じてくるかを解明したものである。
 1950年代のフランコ体制は、国際的孤立から脱却し、国内においても反体制武装活動がほぼ消滅するなど、内戦終結直後から続いていた苦境から脱しつつあった。だが、そもそもフランコ体制は多様な政治勢力を内包しており、体制が安定軌道に乗ると、彼らは各々の構想実現を図るべく、活発な活動を展開する。本書ではそうした試みの実態・連関・限界などを実証的に追いながら、1950年代末の政策転換がそれ以前の経済的苦境に対する合理的対応であった、という従来の見方の修正を試みた。
 本書はまた、フランコ体制を、同時代のヨーロッパ、さらに他の非民主主義体制との比較の俎上に乗せることで、スペイン政治史研究の意義を問うたものである。「太陽と情熱の国」といった紋切り型のイメージでは捉えられない、かの国の歴史に興味をお持ちの方に手に取っていただければ幸いである。

一覧へ戻る

立教大学出版会

リサーチ・イニシアティブセンター

ページの先頭へ戻る

Copyright © Rikkyo University. All Rights Reserved.