著者: | グレッグ・デントン、ロリ・E. ローリー、 A. J. シン[編] 丸山裕、庄司貴行[監訳] |
ISBN: | 978-4-901988-26-1 |
判型: | A5判上製 |
刊行: | 2014年3月 |
定価: | 6,800円+税 |
米国ホスピタリティ・アセット・マネージャー協会のミッションとして、専門的職業知識の向上を支援するために編まれた本書にはアセットマネジメントの実践のための体系的な知識と最新の課題への考察が盛り込まれています。経営機能における価値創造の重要性が広く認識されるようになった現代社会において、ホテル業界関係者のみならず、アセットマネジメントに関わるすべての読者に、とくにホテルアセットマネジメントを学ぶ学生・社会人に、最新・必須の知見を提供します。
庄司 貴行
立教大学における観光研究・教育の分野は、その知名度の高さだけでなく、その内容に国内外から大きな期待を寄せられてきたと自負しています。その立教大学における観光研究・教育は、1946年に開設された「ホテル講座」を源流としています。従って立教大学における観光研究・教育にとってホテル研究は、特別な意味を持っているといえます。
世界のホテル産業は過去30年間で大きく変化をしました。ことに最近10年の変化は特に急激で、そのわかりやすい影響のひとつが、日本においても外資系と呼ばれるホテルが急増したことに現れています。
大手のホテル企業はいまや、ホテル・オペレーターと呼ばれます。彼らはホテルを運営する会社であり、彼らが運営するホテルの多くは、その土地や建物をホテル企業自身は所有していません。そして多くの場合、そのホテルで働く従業員もホテル企業自身は雇用していません。ホテルの土地や建物は、個人投資家や機関投資家と呼ばれる人たちが所有し、彼らがホテル従業員を雇用しています。
ホテル企業は、ホテルの土地・建物などの資産を所有しないことで、いわば身軽になりました。その結果ホテル企業は、自分たちが運営だけを担当するホテルを、これまでにないスピードで全世界に展開することが可能になりました。例えば、マリオットというホテルグループは、現在では70ヵ国で3,000ホテル以上を運営していますが、土地・建物を所有しているホテルはその内の2%ほどにすぎません。
しかしこうした現象は、残念ながら日本ではじゅうぶんに紹介されず、理解もされてきませんでした。アメリカを中心に発達した、ホテル企業が資産を所有せずに運営に特化することで規模を急拡大させるという変化は、日本にはいわゆる「バブル経済」崩壊後に上陸しました。しかしその際に、不良債権処理の手法としての側面が強調され、「ハゲタカ・ファンド」というような言葉とともに、何か新しい錬金術かのように認識されてしまいました。そうした側面が存在したことも事実ですが、世界のホテル産業で起きた大きな変化であることは必ずしも理解されてきませんでした。
つまり、ホテルの土地・建物などの所有者と、そのホテルを運営するオペレーターは、もはや同一ではありません。そこでは、両者の利害はかならずしも一致しないこともあります。この両者をつなぐ役割として登場したのが、「ホテルアセットマネジメント」という分野です。換言すれば、今日のホテル産業の最先端で起きている大きな変化のひとつが、このホテルアセットマネジメント分野の発展だということができます。
本書は、このホテルアセットマネジメントの分野について研究者と実務家が執筆を担当し、学生だけでなく実務家にとっても有益な入門書としてすでに高い評価を受けている著作の日本語訳です。日本でこれまでじゅうぶんに研究されてこなかったこの分野にとって、待望の教科書になると期待しています。この本が、ホテル研究をリードする立教大学の伝統を引き継ぐものになることを願っています。