著者: | 高木 恒一 [著] |
ISBN: | 978-4-901988-18-6 |
判型: | A5判上製 |
刊行: | 2012年3月 |
定価: | 3,500円+税 |
住宅は、従来は主として家族との関係で捉えられてきた。しかし、人々の集住する住宅やその集合体である住宅地は地域社会と大きく関わり、住宅の配置や供給システムによって地域の社会-空間構造に影響を与えている。東京圏を事例として、住宅地の水準に焦点を当て、住宅政策と社会-空間構造の関係、居住者の生活との連関を歴史的にアプローチから分析し、地域社会研究におけるハウジング論の必要性とその意義を明らかにする。
高木 恒一
本書は、住宅と住宅地を社会学的視点から分析したものである。人びとの生活の基盤を形成する住宅とその集合体である住宅地がどのような認識のもとで供給されたのか、そしてその結果として都市の社会 – 空間構造がどのように形成されたのか。さらにはこうした住宅/住宅地が人びとの生活をどう規定し、居住者は社会 – 空間構造形成にどのように関わったのか———こうした「都市に住むこと」を巡る諸問題について、近代以降の住宅政策の展開とその帰結を東京圏を事例として明らかにし、以下の点を主張している。
まず日本の住宅政策については、どのように住宅を供給するかという問題に基づく政策であるよりも、政策の対象となる人々の選別を通して「望ましい」人びとを生み出すための政策とみることができるという点である。近代初頭のスラム・クリアランス以来、「好ましい」人びとと「好ましくない」人びとの線引きが繰り返し行われているのである。
また住宅供給と社会 – 空間構造の関係については、第二次世界大戦後の住宅政策の展開により、高度成長期の郊外化の進展と都心の単身者集住の構造が形成されていることや、高度成長期以降の新自由主義的政策に基づく住宅政策と再都市化の関連を検討した。
最後に指摘したのは、住宅/住宅地のもつ重層的な性格である。住宅政策は具体的な住宅/住宅地建設として現れ、居住者は、政策的な選別を受けながら建設された住宅/住宅地を選択し、そこに住むことを選択する。しかし、この関係は政策→デベロッパー→居住者という一方向的な関係ではない。本書では都心再開発地区において地域的下位文化が生み出されている事例をとりあげているが、この事例は居住者が、政策やデベロッパーの意図とは異なる空間の意味づけを行いうることを示している。ここで居住者は単に政策や開発された住宅/住宅地を受容する存在ではなく、空間形成を行う能動的主体としても位置づけられる。こうした居住者によって生み出される「生きられた空間」の実践は、あるときは意味の「ずらし」として、またあるときは運動として現れ、デベロッパーの意図した住宅地のコンセプトを作り変え、さらには政策のイデオロギーを変容させる可能性を持っているのである。
本書が「都市に住むこと」を再考する契機となれば幸いである。