著者: | 杜 国慶 [編著] |
ISBN: | 978-4-901988-08-7 |
判型: | A5判上製 |
刊行: | 2007年3月 |
定価: | 2,800円+税 |
欧米は1960年代から、産業転換と都市再生問題を解決するため、都市観光に注目した。しかし、観光学研究において、都市で行われている観光はその曖昧性によって無視される傾向がある。地理学において、都市地理学の分野では都市の形態および発展について数多くの成果が蓄積されているものの、観光という把握し難い人間の行動パターンには関心を示さなかった。本書は、都市の持続的な発展と開発の重要な手段、そして一般の都市住民にも大きく関わる都市観光、あるいは観光による都市の変容を、人文地理学の視点から、世界各地の研究者による考察を踏まえたうえ、観光開発に伴う都市の変容を明らかにするものである。
杜 国慶
IGU(国際地理学連合)の都市地理コミッションが、2005年8月に立教大学で国際会議を開催した。その時、近年注目されつつある都市と観光の関連性に関心が示され、本コミッション設立以来はじめて都市観光に関するセッションが設置され、数多くの発表が寄せられた。これらの論文は学術的価値が高く、独創性も富み、世界において先駆的な成果であると考えられる。
欧米は1960年代早くから、産業転換と都市再生問題を解決するため、都市観光に注目した。しかし、都市観光は観光学研究においても都市地理学においても、その曖昧性によって無視される傾向にあった。本書は、都市の持続的な発展と開発の重要な手段、そして都市住民にも関わる都市観光を、人文地理学の視点から、世界各地の研究者による考察を踏まえたうえ、観光開発に伴う都市の変容を明らかにするものである。
本書は六つの部分から構成されている。まず、第一部は2004年アテネで開催されたオリンピック大会を事例として、大規模な国際イベントが都市の経済、グローバルな交通網にインパクトを与え、その都市の国際的なネットワーク構築および位置づけに影響を及ぼす過程を解明する。
第二部は、都市内部の娯楽場所の空間構造を考察する。人間のレジャー、レクリエーション、娯楽などの行動は、都市の中で特定の場所を形成し、さらに都市の空間構造を変えていく。特に、都市中心部の土地利用形態については、都市規模によって、娯楽場所の構造も大きく異なる。
第三部は世界遺産登録と都市発展の関係に注目し、スペインと中国を事例として、世界遺産登録地域観光開発による都市の空間的変容、そして地域の社会・文化への影響を議論する。
第四部は、都市観光者に影響を与える都市のイメージを考える。近年、インターネットの発展によって、都市のイメージ作りと伝達がより便利になった。新しい技術と手段が都市のイメージ作りと如何に関わるかを、スペインの事例を通して解明する。一方、日本では、地域住民の組織と地域イメージ作りの関わりが注目されている。
第五部は、レバノンを事例に選び、都市観光の発展途上国への貢献を考察する。観光が発展途上国に大きな経済効果を与えたため、都市観光が重要な産業として政府に重視される一方、多くの国々では、観光客の増加に伴い、歴史地区の保存と持続的な発展が大きな問題になるであろうとの議論を展開する。
最後に第六部は、国際的な流動と交流が盛んな今日において、香港と北京を対象として、グローバルな大都市における観光開発と空間パターンを論じる。
都市は人間が創造した最大の芸術品とも言われ、多種多様性に富む。その意味で、都市観光は多様性を最大の特徴にしながら、発展途上国と先進国によって状態が変わり、把握しにくい性質ももつ。本書は各国の事例を通して、都市観光の多様なパターンを把握する試みであるとも言えよう。