著者: | 小井 高志 [著] |
ISBN-10: | 4-901988-07-7 |
ISBN-13: | 978-4-901988-07-0 |
判型: | B5変型判上製 |
刊行: | 2006年3月 |
定価: | 9,524円+税 |
図らずもフランス革命に対する反政府的立場に立たされたリヨンの「フランス革命」は何故抵抗運動であり、その源はどこから発し、いかなる思想のもとに展開され、そして挫折したのか。反乱に大きく作用した概念―「ジャコバンに対する恐怖の心性」を引き出すとともに、反乱鎮圧後のリヨンにおけるジャコバンの恐怖政治の実態をアナール学派の手法を用いて数量的に測定し論究した労作。
小井 高志
リヨンは、パリから450キロほど離れたフランスの東南部にある。その起源は古代ケルトの時代にまで 遡ることができ、今日まで続いているフランスでも有数の歴史的な大都市である。市内の所々に現在もなお古代ローマの遺跡やルネサンス時代の街並みが残されている。しかしリヨンといえば、なにより16世紀以来の銀行業と絹織物工業の都市として有名で、わが国とも歴史的に深い関係があった。幕末から明治にかけてわが国で生産された生糸はその一部がリヨンに輸出されたし、西陣の職人はジャカード織を学ぶためにリヨンに留学した。「フランス物語」を書いた永井荷風も銀行員としてこの地に滞在したことはよく知られている。
そのリヨンでも18世紀末のフランス革命のとき、急進的なサン=キュロット(貴族や上層ブルジョワのキュロットではなく、長ズボンをはいていた一般庶民を、当時の人々はこう呼んだ)の革命運動が展開されたが、パリとは異なり、それに反発する富裕な穏和派市民が反乱を引き起こした。しかしその反乱は、ときのジャコバン派の政府により武力によって鎮圧された。その結果、約10ヶ月間に2000名近くの反徒と見做された市民が、フーシェなどのジャコバン派による恐怖政治によって処刑された。
本書は、その過程を辿りながら、サン=キュロット運動と、それに抵抗した反乱、および恐怖政治、それぞれの実態をフランスの古文書館に収蔵されている原史料に基づいて明らかにし、その意義を論じたものである。
その際、筆者はフランスのアナール学派の社会史・歴史人口学の方法を用いて、それぞれの運動参加者と恐怖政治の犠牲者の実態を数量的に明らかにするよう努めた。その結果として本書の巻末には多数の図表、グラフ、地図が添付されている。それを参照されると、今日の歴史学が方法的にはどのような研究を目指しているのか、それをある程度理解していただけると思われる。同時に本書は、現代の我々が人権とか民主主義、自由と平等を考えるうえで、その原点のひとつとなったフランス革命から、新たにどのような問題(それは困難といってもよい)を汲み取ることができるかを示している。さらに本書をつうじて革命によって斃(たお)れた人々のそれぞれの死の意味を再認識していただければ幸いである。