連続講演会レポート

第3回 持続可能な未来への展望 ~経済・環境・社会・教育の視点から~

2006年3月10日(金)13:00~16:30
会場:池袋キャンパス11号館地下AB01教室

講演会ポスタ-
講演会ポスター

今年度、立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科リサーチワークショップ運営機構が主催した連続講演会は全5回であるが、第3回目となる今回は、その折り返し地点であるとともに、来年度も継続される本プログラムの事実上の所信表明とも言える講演会となった。

持続可能な未来への異文化コミュニケーション

鳥飼玖美子氏
鳥飼玖美子氏

異文化コミュニケーション研究科立ち上げの中心人物にして著名な同時通訳者でもある鳥飼玖美子教授は、なぜこの研究科で「環境」を考え、研究していかねばならないのかを「インタープリター」という存在を例にとって説明した。

ふつうならば「通訳者」を意味するこの言葉、環境用語では、自然とのふれあいの媒介者となるような、環境教育におけるガイドとしての意味合いをもつ。

自らの地域の、その自然を知り、環境を知り、文化を学んでいくこと。その先にたち現れる「異文化」との交流において、言葉のインタープリターのみならず、互いの自然環境を解説し、翻訳することのできるインタープリターを育てることこそは本研究科の最大の使命であり、同時に、このたびの「『魅力ある大学院教育』イニシアティブ」に採択された本プログラムのめざすところでもある—。

こうした鳥飼氏の説明は、反対に、なぜ環境を抜きにして異文化コミュニケーション学が成立するのだろうか、という反語的な質問を、参加者であり学習者である私たちに突きつけてくるものであった。

基調講演~持続可能な未来への展望~

寺西俊一氏
寺西俊一氏

「サステイナブルな社会・経済を求めて」と副題がついた寺西俊一の基調講演には、何度となく英語語彙の翻訳をめぐる含蓄に富んだお話があった。このことは、まさに氏が、環境を経済学に紹介し翻訳した、もう一人の「インタープリター」であることを示していた。

たとえば、「Sustainable」という用語をいかに訳すか、という問題は経済学的にも重大な意味を持つ。本講演会でも、また、文部科学省に採択された本プログラムのタイトルでも、この言葉を「持続可能」と訳しているが、寺西氏は敢えて「維持可能」という訳語を用い、“sustain”の原義である「下から支える」というイメージを強調した。寺西氏本人も認めるように、「持続可能」という訳語には決して間違いはない。だが、この日本語はともすると「持続的発展」といった楽観的かつ環境破壊的なイメージに結びついてしまうという。

では、いかにして政治・経済は「維持可能性」というものを実現できるのか。寺西氏は、環境権の確立や環境責任の明確化など、16項目にわたる条件を示した上で、「第一世代の環境政策」から脱皮し、「第二世代の環境政策」に移ることを主張した。その政策の基本的な課題とは、予見的・予防的政策になることがひとつと、もうひとつは、部分治療型から全体治療型への政策転換ということがあげられた。

政府がこの2つの課題に取り組もうとするならば(実際、その取り組みは始まっているのだが)、膨大な資料と参考文献から成る今回の氏の基調講演こそは、まっさきに参照されるべき成果であるに違いない。

パネルディスカッション

パネルディスカッション (左から)内山節氏、川嶋直氏、 小林光氏、寺西俊一氏、阿部治氏
パネルディスカッション
(左から)内山節氏、
川嶋直氏、小林光氏、
寺西俊一氏、阿部治氏

休憩を挟み、壇上の長テーブルには、環境に携わる「猛者」たちがずらりと並んだ。彼らは一様に穏やかな笑みをたたえてはいるが、環境危機というリアリティに誰より鋭く反応し、誰よりも強く思考しようとしてきた。だからこそ、30年後の未来を語ろうとする彼らが、あえてこれまでの30年間を振り返ろうとしたのは、全く自然なことだった。これからの30年は、これまでの30年の延長にある。それはパネリスト全員に共有された思いであった。

制度の改革、意識の改革、行動の改革。3つの改革は、はたしてどこから始められるべきなのか。たとえそれぞれの改革が進行していったとしても、それらは有機的に連動しうるのか。

初めに、環境省地球環境局長の小林光氏が、先の寺西氏の講演を引き継ぐかたちで、環境政策の“内側”から報告を行った。「経済は人間生活の道具であり、これからはこの道具を環境に活かすことが大事」と説く氏は、ここ20~30年の環境政策を振り返り、「公害のない社会」から「めぐみのある環境」への転換があったことを強調しつつも、そうした政策を支えていくためには「足元からの解決」が、今もっとも大事なのではないかと述べた。

これに対し、本学教授であり、森作りフォーラム代表理事でもある内山節氏は、制度改革と意識改革のあいだに生じた、決定的な亀裂を指摘する。

30年前に比べて「高くなった」と言われる私たちの環境意識が、実は政府や企業による環境的な制度の広まりによってのみ実現しているのではないか、と内山氏は問いかける。

制度上の改革は、必ずしも私たちの行動の改革にまでは及ばず、政策という「上からの改革」と、小林氏のいう「足元からの解決」は、必然的な結びつきをもって推進されているわけではない。たとえば、現代に生きる森林所有者が、地球全体規模から言えば針の穴ていどの森林を所有することで「環境に貢献している」と語るとき、そこから本来的な森林との関わりが抜け落ちていることに、今、多くの人が気づけなくなってしまっている。そもそも、(結果的に環境保護につながる)ささやかだけれど豊かな森林との暮らしは、ひょっとすると環境保護という思想からもっとも遠いところにおいてのみ成り立つのではないのか—。

自らも森林を所有する内山氏の発言は、持続可能な未来への展開における根本的な不安を浮き彫りにしてみせた。

続いて、本学教授であり、財団法人キープ協会常務理事の川嶋直氏から、環境教育の視点による報告がなされた。内山氏が描出した、環境にまつわる意識と行動のねじれた関係をときほぐし、目に見える世界から見えないものを伝えていく「インタープリター」としての環境教育のあり方を解説する川嶋氏は、問題の本質を「足元」より深い「根っこ」の部分に求めていく。

「こういっては何なんですけど、環境の教育プログラムがやっていることは、すべて枝葉の部分でしかないような気がするんです。それより僕がみなさんに聞きたいのは、『根っこのスイッチはいつ入りましたか?』ということなんです。」

環境思想を、ただの言葉や概念として伝えるのではなく、学習者が自ら発見し身につけていく過程をサポートするのが環境教育者の仕事であるのならば、己の職務を枝葉のことと謙遜しつつも、たえず学習者が自らの「根っこのスイッチ」を入れる瞬間に神経を集中することこそは、プロのインタープリターの真髄なのだろう。

今回のコーディネーターであり、「持続可能な開発のための教育の10年推進会議」の代表理事を務める本学教授・阿部治氏によって、こうした3者の対話がまとめられた後、マイクはふたたび、基調講演者を終えたばかりの寺西氏の手に渡った。

小林氏の発言を受け、「足元で閉じてはいけいない」と述べる寺西氏は、意識改革と制度改革が同時に進まねばならないと主張することで、このパネルディスカッションに「社会システム」という視点を再導入した。このとき、すでに自らの足元に「根っこ」を感じはじめていた私たちは、氏の言う社会システム論が単なる「上」からの改革ではなく、私たちの生活すべてを円滑に機能させるための議論であったことを改めて確認した。

特別講演

小池百合子氏
小池百合子氏

下から上に伝えることと、上から下へ伝えること。異なる文化・領域にあるものたちのコミュニケーションを考えてきた本連続講演会において、今回の官と民のあいだのコミュニケーションは、とても挑発的であると同時に、きわめて建設的なものとなった。

その締めくくりとして紹介されたのは、アラビア語通訳やテレビキャスターを経て、現在、環境大臣と活躍する小池百合子氏である。環境問題のみならず、経済界をも巻きこんだ「クール・ビズ/ウォーム・ビズ」の事例を中心に、グローバルな問題がいかに生活者ひとりひとりに関わっているかを説く氏の語り口は、まさに立て板に水であった。

中でも二つの「ビス」に続く新たな提言としてなされた、ふろしきの復活宣言は印象的であった。

「もったいない風呂敷」と名づけられたそのふろしきは、先のパネルディスカッションにおける「足元からの解決」の実践である。それを商品化し普及させることは、ふたつの「ビズ」同様に、経済を豊かな環境づくりの道具に利用することを意味する。このような、制度・意識・行動が鮮やかに結びついた氏のレトリックは、まさに「インタープリター」のパーフェクトな実例であるかのように思えた。

「もったいない風呂敷」 (プレゼンテーション資料より)
「もったいない風呂敷」
(プレゼンテーション資料より)

しかしながら、そうした流暢な政治的広報に耳を傾けながらも、敢えて私たちが肝に銘じておかなければならないこととは、川嶋氏が繰り返し主張した「『言った=伝わった』ではない」という戒めであり、同時に、内山氏が表明した、意識と行動の本質的な乖離への不安であろう。

今、さまざまなインタープリターの導きを頼りに、持続可能な未来を展開していこうとするならば、現在進行形の環境政策を語る小池氏の淀みない言葉にあえて淀みを与え、延々と循環し続ける環境論争のなかに小池氏のような行動的言説を接続するといった双方向の思考力が、私たち学習者には強く求められているのかもしれない。

報告:波戸岡景太
ポスターデザイン:山田邦博

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