立教大学出版会

採択作品


『CSRと市場―市場機能におけるCSRの意義』

粟屋 仁美 著

 

 

 資本主義社会は,各主体が市場で財・サービスを交換し,その差益で利潤を得るシステムです。財・サービスは,買い手の欲しいもの,喜ぶものであることが前提であり,相互に必要なものを正当に交換し合っていれば,資本主義は皆の幸せを実現する社会といえます。
 現実には,時に「市場の失敗」と呼ばれるひずみが生まれます。ひずみを是正するべく,21世紀に入り,財・サービスを生産する企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility-以下CSR)が,盛んに議論されるようになりました。企業が社会を意識した経営を行うことが望ましいとする考え方は一般に浸透しており,どの企業もCSRを軽視できない状況になっています。ところが,CSRは,時代に応じて様相を変えるとともに,論者の研究領域や認識目標の相違により捉え方は異なり,統一した定義がなされていません。経済が低迷するとCSRへの興味関心は薄れ,何がしかの社会的課題が生じるとCSRが徹底的に問われます。CSRとは外部環境に左右されるものなのでしょうか。
 そうした問題意識にもとづき,本書では企業とは何か,CSRとは何かを,市場原理の費用概念を用いて考察しました。CSRは,社会の利益や企業の利潤の目的と,それを実現するための手段との連鎖を考えなければ,混乱を招きかねない概念です。そこで利潤と費用を時間軸で捉え,CSRに要する費用は利潤と二律背反しないことを論証しました。その結果,資本主義社会における経済的役割が企業のなすべきCSRであり,それを遂行するための手段が,社会の期待するCSRであることを述べました。こうしたCSRの遂行は,資源配分のシグナルである企業の利潤を適正な値に是正します。つまりCSRは,資源の合理的で効率的な配分機能をつかさどり,社会の利益の実現に寄与する概念であるといえましょう。
 CSRを費用の視点で考察した本書の帰結は,曖昧で情緒的なCSR概念を整理し,不当な交換に基づく利潤の収奪を論理的に批判する枠組みを提供しました。ここに本書の学術的貢献があると自負しています。また学術的なCSR研究はもとより,実務面におけるCSRの推進に,少しでも寄与できれば幸いです。 本書は,博士論文「経済的費用概念としてのCSR―社会的費用の私的費用化を中心として―(Corporate Social Responsibility in Cost Concept: Focusing on Internalization of Social Cost)」(ビジネスデザイン研究科ビジネスデザイン専攻2009年度)に若干の修正や加筆を行ったものです。研究の成果を公表する機会を与えてくださった,立教大学出版会,また関係の皆様方に,心よりお礼を申し上げます。
 比治山大学短期大学部 准教授 粟屋仁美


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